経理担当者を置けないひとり法人へ|freee標準機能とAIで無視143件・処理205件を自動化した実例【シリーズ第3回】

AI活用

前回、前々回とClaudeやClaude Codeの使い分け・常時稼働の話を書いてきました。今回はその応用編として、実際にFluxxの経理をどこまで自動化できたかの実例です。

freeeを開いて、明細が20件並んでいるのを見るたびに手が止まります。これは経費なのか私費なのか、勘定科目は交際費か消耗品か、税区分は10%か軽減税率か。1件ずつ見れば数十秒で終わる作業でも、それが週に何十件も積み上がると、経理は「後でやる」の筆頭候補になります。カード明細には、クライアントA向けの制作費もあれば、月額サブスクBのような完全に私的な支出も混ざっています。1枚のカードで両方使っている以上、機械的に振り分けるのは簡単ではありません。

Fluxxはクライアントワークが中心のWeb制作会社で、経理を専任で置いていません。だからこの先延ばしが一番の敵でした。放置すれば月末に固まって降ってきますし、判断を誤れば申告に響きます。かといって外部の記帳代行に丸投げすると、判断の速度もコストも見合わない規模感でした。

そこで作ったのが、freeeの標準機能とClaudeを組み合わせて、明細処理の大半を人の手から離す仕組みです。特別なプログラムを新しく開発したわけではなく、freeeにもともとある機能と、Claudeへの頼み方を工夫しただけです。全部を自動化したわけではありません。判断が要るものは人に残し、判断が要らないものだけを機械に任せた、というのが実態に近い形です。

この仕組みは大きく2段階でできています。特別な作り込みなしで、誰でも今日から真似できる範囲。そして、慣れてきたところで、AIに道具そのものを作らせて育てていく発展形です。まずは前段から説明します。

標準機能だけで、ここまでできる

freeeの「自動で経理」には、過去の仕訳パターンをもとに勘定科目や税区分を提案してくれる推測登録の機能があります。これに、Claudeへの頼み方を組み合わせます。「今週たまった未処理明細を確認して、過去のパターンとはっきり一致するものは登録案を作って、迷うものは番号を振って報告して」とClaude(Desktop の Code タブでも、ターミナル版の Claude Code でも構いません)に頼めば、freeeの画面を見ながら同じ作業をこなしてくれます。

過去の実績パターンが明確というのは、同じ取引先や同じ用途の明細で仕訳が何度も繰り返されている状態を指します。1回や2回の前例だけでは登録に回さず、要対応に残すよう頼んでおきます。判断の再現性がない明細を無理に自動化すると、あとで直す手間の方が大きくなるからです。

過去のパターンに当てはまらない明細は、無理に登録せず、番号を振って報告してもらいます。たとえば1番はクライアントA向け制作費55,000円、交際費か消耗品か判断できず、というように、迷った理由も添えてもらえば、人がやることは番号を指定して1番は交際費、と返すだけになります。

直近の週は、12件の明細のうち6件がこの状態で回ってきました。半分は自動で片づき、残り半分だけ人が見ます。この比率は明細の種類によって変わるので、毎週同じ割合になるわけではありません。

無視ルールで私費決済を消す

経理の明細処理でいちばん時間を食っていたのは、実は経費でも売上でもなく、個人カードの私費決済でした。フードデリバリーやサブスク、チャージなど、経理処理そのものは不要で「無視」ボタンを押すだけの明細が、毎週それなりの数出てきます。

過去3ヶ月分の無視処理を数えたら143件ありました。全部見直すと、フードデリバリー・サブスク・チャージなど頻出パターンが8つに絞れました。特にフードデリバリーだけで無視全体の62%を占めていました。ここまで偏りがあるなら、毎回手で無視を押すより、最初から自動で無視されるようにした方が早いはずです。

これも特別な開発は要りません。freee標準の自動登録ルール機能を使い、頻出パターンに対応する部分一致ルールを10件作りました。対象口座を限定した上でCSVインポートする形です。口座を絞らずに部分一致ルールを組むと、関係ない明細まで巻き込みかねません。実際、最初にルールを流したときは対象口座の指定を忘れていて、拾ってほしくない明細まで無視候補に入りかけたことがありました。口座を限定してから、狙った範囲だけがきれいに無視されるようになりました。

ルールは1つのキーワードに1件、というほど単純ではありません。フードデリバリーだけでも表記ゆれがいくつかあり、部分一致の文字列をどこまで広げるかで拾える範囲が変わります。広げすぎれば経費の明細まで巻き込み、狭めすぎれば手動対応が残ります。この匙加減は、無視処理143件の内訳を見ながら少しずつ調整しました。

このルールによって、手動での無視作業は約75%減りました。標準機能だけで、これだけの数字が出せます。

お金を動かす前に、必ず確認させる

自動化を進めるうえで一番怖いのは、AIが勝手にお金を動かすことです。ここは、特別な仕組みを作らなくても、Claudeの標準の確認機能で担保できます。

Claudeには、ファイルの変更やコマンドの実行など、影響のある操作を行う前に、内容を提示して人の承認を求める設定があります。freeeへの登録操作も同じで、「この明細をこの勘定科目・税区分で登録していいですか」と確認を挟んでから実行するように頼んでおけば、Claudeが勝手に登録を終わらせてしまうことはありません。特別な仕組みを新しく作らなくても、この確認を挟む頼み方さえ徹底すれば、金銭操作の安全は十分に担保できます。

実際の数字

3ヶ月間の実績を並べると、次のようになります。標準機能とClaudeへの頼み方の工夫だけで、ここまでの数字が出ています。

  • 明細合計 349件
  • 自動で無視 143件(うちフードデリバリーが62%)
  • 処理済み 205件(残る1件は確認待ち)

月ごとの正確な推移は追っていませんが、単純に3で割ると月100件強のペースです。この規模の明細を毎回1件ずつ目視していたら、経理は間違いなく後回しになっていたはずです。直近の週の処理では12件中6件だけが人の判断を必要とし、残りは自動で片づいています。

205件という処理済みの数字は、自動登録と入出金消込を合わせた合計で、内訳までは記録していません。細かい集計を残していない点は、この仕組みの弱いところでもあります。数字を追いたいなら、登録種別ごとにログを分けて残す設計にしておいた方がいいでしょう。

導入するなら、まず何から

これから同じような仕組みを作るなら、順番は無視ルールからがいいと思います。金銭を動かさない分、失敗しても被害が小さく、効果はすぐ数字で見えます。過去の無視履歴やクレジットカード明細を眺めて、繰り返し出てくるパターンを先に洗い出す作業から始めるのが早道です。

次に、Claudeへの頼み方を整えます。「機械が自信を持てるものだけ登録案を作り、それ以外は番号を振って人に投げる」という線引きを先に決めておくと、後から頼み方を調整しやすくなります。

金銭を動かす操作を、確認プロンプトなしで進めるのは最後まで避けたほうがいいでしょう。判断の線引きが固まってからでないと、確認する側も何を確認しているのか判断できません。

逆に、最初から全自動を狙わない方がいいはずです。過去の実績パターンが薄い明細まで機械に登録させると、税区分の誤りが月末にまとめて発覚します。無理に自動化率を上げるより、機械が自信を持てる範囲を先に線引きし、それ以外は人に戻す設計の方が、結果的に長く運用できています。

慣れてきたら、AIに道具を作らせて育てる

ここまでは、freeeの標準機能とClaudeへの頼み方の工夫だけで実現できる範囲です。Fluxxでは、この仕組みに慣れてきたところで、もう一段先に進めました。

毎週人がClaudeに「確認して」と頼む代わりに、cronジョブ(決まった時刻に自動で処理を動かす仕組みです。第2話で詳しく触れています)が月曜の朝に自動で明細確認を始めるようにしました。無人で回すこの段になって初めて、第2話で書いた、パソコンを常時起動しておく基盤が効いてきます。

承認の仕組みも、Claudeの確認プロンプトから一歩進めました。金銭に関わるコマンドは実行前にフックが機械的にブロックし、Slackにチャレンジコード付きの承認依頼を投稿、経営者が「OK」のリアクションを押してはじめて実行できる、という専用の仕組みに置き換えています。登録の直前には勘定科目・適格請求書区分・税区分・タグの4項目をまとめて検証し、実行後はfreeeのAPIで処理済みステータスを確認してから、はじめて完了報告をSlackに出します。

freeeを直接操作する自作のCLI(コマンドラインツール)も、この連携の中で作りました。補足しておきたいのは、このCLIやSlack連携そのものも、最初から人の手だけで書いたわけではないということです。Claudeに要件を伝えながら作らせたものです。道具を使うだけでなく、道具そのものをAIに作らせて育てていく。これが発展形の実態です。

ただしこれは、あくまで慣れたあとの話です。まずは前段の、freeeの標準機能とClaudeへの頼み方だけで、十分に手が離せます。

まとめ

経理の自動化というと、専用のプログラムを新しく開発する話に聞こえがちですが、実際にやってみた実感は違います。freeeの標準機能とClaudeへの頼み方を工夫するだけで、判断が要らない作業の大半は機械に渡せました。慣れてきてから、cronやSlack連携といった道具を、Claudeに作らせながら育てていく。この二段構えが、実際にやってみた形にいちばん近いです。

143件・205件という数字自体は、Fluxxの規模だから出た数字にすぎません。他の会社で同じ数字が再現されるとは思っていません。それでも、まずは標準機能とAIへの頼み方だけで始められる、という前段の話は、経理担当者を置けない小さな会社であればどこでも使えるはずです。


付録:AI向け再現ガイド

(この付録は、AIエージェントが本記事の仕組みを再現する際の手順整理を目的としています。本文とは異なり、ここから先は構造化された「である調」で記述します。)

前提条件

  • freeeアカウントと「自動で経理」機能へのアクセス権
  • Claude(Desktop の Code タブ、またはターミナル版の Claude Code)

標準機能フェーズ(誰でも今日から始められる範囲)

  1. freeeの過去3ヶ月分の「無視」処理履歴を確認し、頻出パターン(取引先名・用途の文字列)を洗い出す。
  2. 洗い出したパターンをもとに、freee標準の自動登録ルール機能で部分一致ルールを作成する。対象口座を必ず限定してからCSVインポートする。
  3. Claudeに「今週たまった未処理明細を確認し、過去の仕訳パターンと明確に一致するものは登録案を作成し、一致しないものは理由を添えて番号付きで報告する」よう依頼する。
  4. Claudeが登録操作を行う際は、実行前に内容を提示して人の承認を求める設定にしておく。承認プロンプトを省略しない。

発展フェーズ(標準機能フェーズに慣れてから)

  1. 週次の明細確認をcronジョブ化し、決まった時刻に無人で起動するようにする。無人運用には常時起動PC(第2話参照)が前提になる。
  2. 金銭を動かす操作は、実行前にフックで機械的にブロックし、Slackへの承認依頼投稿とリアクション確認を経てから再実行する仕組みに置き換える。
  3. 登録直前に勘定科目・適格請求書区分・税区分・タグを検証し、実行後はfreee APIで処理済みステータスを確認してから完了報告を出す、という二重チェックを組み込む。
  4. これらの連携ツール(CLI・Slack連携)自体も、要件をClaudeに伝えながら作成する。

注意点

  • 143件・205件という実績数値はFluxxの規模に基づくものであり、他社での再現値を保証するものではない。
  • 判断の再現性が低い明細(前例が1〜2件しかないもの)は自動登録の対象から外し、人の判断に残す設計を推奨する。
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Author

大平 兼士

大平 兼士

CEO

神戸大学経済学部卒業後、株式会社ミクシィにてminimoの立ち上げやマッチングアプリのWEBマーケティングに従事。2018年5月に株式会社Fluxx設立。2019年より株式会社メディロムに参画し、現在はメディロム・シェアードサービス取締役を兼任。

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