
動画広告のナレーション、人に頼む前にAIで試した結果
この夏、広告用の動画を1本作りました。いちばん時間を取られたのは映像ではなく、ナレーションでした。
樹木葬を運営するクライアントで、YouTubeとMetaに出す30秒の動画広告を作ることになりました。台本を書き、映像を組み、テロップを載せる。ここまでは社内で進みました。カット割りも秒数も決まって、あとはナレーションを乗せるだけ、というところで止まりました。
ナレーションだけ社内で作れなかった
台本と映像とテロップは社内で作れましたが、社内にナレーターはいません。動画広告の制作費と聞くと、まず撮影や編集を思い浮かべると思います。ただ、素材と編集を内製できる会社でも、最後まで自前で埋まらないのはナレーションでした。
2026年9月8日時点で、各社が公開している料金表を見比べた範囲では、依頼先によって次のような幅がありました。
- クラウドソーシング(ネット上で個人に仕事を頼めるサービス): 1本1,000〜5,000円程度
- 個人のナレーター: 1,000文字あたり2,000〜6,000円程度
- 制作会社の宅録: 500文字以内で1万5,000円前後
- 声優事務所: 1時間あたり3万円から。日本語400文字で1回1万2,000〜2万5,000円という記載もありました
幅が広いのは、品質にどこまで払うか、手間をどちらが持つかが依頼先によって違うからです。樹木葬の広告で使える落ち着いた声質を求めると、制作会社水準が現実的でした。そして広告のクリエイティブは、1本作って終わりではありません。訴求を変えて何本も試したい。仮に1本1万5,000円のナレーションを、訴求違いで5本試せば7万5,000円。月5万円の広告費で検証しているクライアントなら、声の費用が広告費を超えます。1本ごとに人を挟む前提だと、検証の回数そのものが予算で決まってしまいます。
重いのは金額だけではありませんでした。ナレーターに頼むと決めた瞬間に、探す、声のサンプルを聞いて選ぶ、原稿を渡す、収録を待つ、上がってきたものを聞く、という工程が増えます。そして直しが出る。「この一言だけ、もう少しゆっくり」で再収録の相談になります。30秒の動画1本に、制作とは別の時間が積み上がっていきます。

最初のAI音声は使えなかった
この計算が引っかかり、人に頼む前にAI音声で代わりにならないかを試すことにしました。7月半ばにAI音声で1本作りました。社内で聞いてもらうと、評判はよくありませんでした。
若者向けの声に聞こえる、というのが第一声でした。樹木葬の広告で、想定している視聴者は自分の親や自分自身のお墓を考えている層です。そこに軽い声が乗ると、内容以前に浮きます。読みとアクセントの誤りもありました。「樹木葬」が正しく読まれず、社名も語尾が跳ねる。ブランド名を読み違える音声は、広告に乗せられません。
このときのクライアントへの見積もりには、AIでは品質担保が難しいと注記を入れました。自分たちで試して、自分たちで無理だと判断した記録が残っています。
ここで人に頼む選択肢もあり、実際そうしかけました。
Google Vidsで作り直した8月版
ただ、その1本を作ったのと同じ7月半ばから、別のAI音声も並行して調べていました。その中に、すでに契約しているGoogle Workspaceで追加費用なしに使えるものがあり、8月にもう一度だけ試すことにしました。使ったのはGoogle Vids(Googleの動画作成ツールで、原稿を入れると音声を生成できます)です。Workspaceの契約に含まれていて、追加の費用はかかりませんでした。
同じ原稿を読ませて社内で聞いたときの反応が、7月とは違いました。このレベルなら使える、という言葉が出ました。ツールを変えただけで、声の質と読みの自然さは別物になりました。7月版から1ヶ月しか経っていません。
もっとも、そのままでは出せませんでした。アクセントの誤りが残ります。特に固有名詞と、耳慣れない言葉です。
直し方は単純でした。原稿の書き方を変えます。漢字をひらがなに開く、逆にひらがなを漢字に戻す、単語の切れ目にスペースを入れる。読ませたい読み方に合わせて、文字のほうを調整していきます。「樹木葬」をひらがなにしてみる、社名の前で区切ってみる。生成して、聞いて、また文字をいじる。この往復を数回まわすと、気になっていた箇所が収まりました。

この作業は、再収録の依頼と数日の待ちに比べればはるかに軽いものです。自分の手元で完結して、待ち時間がありません。直したいと思ってから直った音を聞くまでが数分です。
8月末にこの調整を終えて、配信に進みました。
1つのツールの判定をAI音声全体に広げない
2026年9月8日時点で、注意しておきたいことが3つあります。
ひとつめは、1つのツールで出した判定を、AI音声全体に広げないことです。7月に「使えない」と判断したのは別のAI音声で、8月に使えたのはGoogle Vidsでした。私たちは見積もりに注記まで書きましたが、ツールを変えたら1ヶ月で覆りました。ツールも時期も変わります。AI音声を一度試して駄目だった経験がある方は、何で、いつ試したかを確認してみてください。
ふたつめは、AIに任せきりにはできないことです。原稿の文字を直す作業は残ります。外に払う費用と数日の待ちが、社内の数十分に置き換わっただけで、ゼロになったわけではありません。数回まわして勘所がつかめました。
みっつめは、これが1社の1本での結果にすぎないことです。樹木葬という商材、30秒の尺、この原稿で使える音声に仕上がりました。感情の起伏を求められるものや、より長い尺で同じ判断になるかは、私たちにはまだ言えません。
ナレーターを探す前にAIで1本作ってみる
動画広告をやりたいけれど制作で止まっている、という相談をよく受けます。その止まっている場所が声なら、人を探す前に一度AIで作ってみてよいと思います。Workspaceを契約していれば追加費用なし、個人のGoogleアカウントでも月50回分までは無料で試せます。駄目なら人に頼めばいい。30秒の広告動画に限れば、試さずに外注へ進む理由は、少なくとも今はありません。
ただ、私たちもまだ次の1本で同じ判定が出るとは限らないと思っています。次に長い尺を作るとき、この結論がどう変わるかは、また書きます。
私たちFluxxでは、こうした動画広告を社内で回す体制づくりも含めて、広告運用のご相談を承っています。
広告運用から集客設計、業務の自動化まで
ツール選びから業務設計、自動化の実装まで——
すべて1社で完結できるのが私たちの強みです。




